世界への挑戦を通して今思うこと。

   
   
   
   Photo:Sonoko TANAKA 自分にとって今年前半の欧州遠征最後のレース『パリオ・デル・レチオート』(イタリア)UCI 1.2U


 今年の4月はワールドカップ戦など含めUCIレース(世界のロードレース)を走って、また新たに今までより広い世界を見てきて新たに感じていることがある。


 自分が憧れているもの。世界を活躍の舞台としているプロロードレーサー。それがどれだけのことを乗り越えてその先にある姿なのかということを身を持って体験しています。こうして世界へ身を投じて初めてその本当の現場に触れることができる。日本にいては遠く知ることができない世界という現場。これは確実に言えることだろう。


 日本という環境にいては話を聞いていても下調べをしていても、実際の現場がどうあるかということをきっと半分くらいしか理解できないのではないかと思う。いや、半分も理解できないんじゃないかな。と言った方が本心に近い。自分自身ジュニアカテゴリーの頃、ジュニアナショナル遠征で海外レースを体験し世界のロードレースがどういうものなのかを覗かせてもらった。それがキッカケとなり今の自分がこうある。


 浅田監督へ世界へ挑戦したいという想いを初めて伝えたとき浅田監督は「世界は本当に厳しいぞ。それでもやっていけるか」という質問を僕にした。そのとき自分は「はい。頑張ります」と答えた。
 ジュニアナショナル遠征で海外レースへ2回行ったことがある。だから多くは知らないけどそれがどういうことなのかまったく想像できないわけではなかった。ジュニア時代に経験した海外レースで感じたことすべてを思い出し世界は厳しいと想像して口にだした質問への「はい。頑張ります」という答えは「よろしくお願いします。世界で走らせてください」という意味の精一杯の表現だった。2012年の4月、全日本選手権U23のレース2位だった翌日のこと。
 それから2年後の4月を今こうして歩んでいる。今何を体験し何を感じているか。この2年という時間があのときの自分からどう変化させたか、ここではそれを書いてみたいと思う。




 今年の4月は一言で例えると嵐のような1ヶ月だった。フランス、ベルギー、オランダ、イタリアのレースを走った。すべてU23カテゴリーのロードレース。自分と同世代の各国代表選手たちが参加するU23世界最高レベルのワールドカップ戦を含め、どのレースもプロになりたいという強い気持ちを持って走っている選手たちが集まるレースだった。

 1レースを走るたびにレースを走る前と後ではものの見え方が変わる。1日という時間で、これほど人は視野の広がり方が変わるのかと驚いているくらいに。でもそれも不思議なことではない。U23カテゴリー世界最高レベルのレースだということを認識して自分の中で1レース1レースを大きな存在にしているからだ。そしてここで自分が求めるある一定以上の結果、求められる結果を出せると本気で思って毎レース走っている。


 そしてそれに遠く及ばない結果の連続というのがレース後の姿。一言ではまとめられない本当に悔しい気持ちになる。「できる」と本気で思ってレースを走り毎回目標に及ばない。こんな自分がどんどん嫌いになっていくし、コンプレックスの塊みたいになってしまう。
 この前のイタリアでのレース。上りの苦しい局面で思った。一瞬たりとも弱気になるな。カラダはいつも大丈夫。カラダの前にいつも苦しい局面になると気持ちが負けていると。それを自分でも嫌なくらいにわかっている。一瞬たりとも弱気にならずに強気で行けよ。カラダが壊れるくらい粘ってみろよ。そう自分に言い聞かせた。
 浅田監督が面手は走れるときと走れないとき、走ってる時の表情が違うと言う。それはまさしく自分の気持ちの表情への表れを言っている。苦しい場面でそれを思い出し、受け身にならずに苦しい一瞬を耐えて乗り越えようと喰いしばったが耐えきれなくて千切れてレースが終わってしまった。
 自分にとってそのレースが今年前半の欧州遠征の最後のレースだった。そのレースを終えた後、その日のレースのこととこの1ヶ月間を振り返って色々と思うことがあった。


 レース後に大門監督の言っていた言葉は深く身に染みました。
 「このヨーロッパの自転車ロードレース世界は日本の100倍の数の人が自転車に乗り始めて、選手という時期を過ごす。そしてプロへのステップを上がることができなかった日本のまた100倍の数の選手がやがて自転車を降りていく。プロとして走っていける人間というのは本当に一握りの選手なんだよ。」と。

 わかりすぎる。それがどういうことか現場を走っている自分にはわかりすぎるくらい伝わってくる言葉だった。

 走り始めるのも自由。降りていくもまた自由な世界。

 
 ヨーロッパのロードレースへ挑戦すること。それはビジョンが明確でないとただ苦しいだけになってしまうだろう。強い気持ちと強い意志がないと世界への挑戦はできないと感じた。半端な気持ちでヨーロッパへ行ったら身も心もぶちのめされて自分へ対する自己重要感が崩壊してしまうだろう。自分が走ることに価値を感じなくなってしまうということを言いたい。そう気持ちが打たれた経験もある。


 日本とヨーロッパの自転車ロードレースは多くのことで違いがありすぎる。違いすぎるからヨーロッパの経験がなければこの本物を知ることはまずできないだろうと思う。
 自分たちナショナルチームの選手は日本を代表して世界舞台へこうして戦いに来ている。ヨーロッパの国の代表選手とこうして同じスタートラインに並んでいる。でも、そのスタートラインに並ぶまでにだって分母数の大きさが100倍違うそのうちの1。そのくらいと考えていい。


 ここへ達するまでにも大きな違いがあること。もちろんそうして厳しいものを知っていてそこで上がってきた選手というのは持っているもの、気持ちの強さ、意識の高さ、選手として大事なことも自分たちよりも大きいものを持っていると感じた。彼らの不利とか有利とか関係なく、なにがなんでも達成してやろうという強い気持ちでカラダの限界まで自分を追い込んで走っている姿を目にしたとき、その攻撃を受けてレースで苦しんだとき、彼らは何を背負って、どんな感情と共に走っているのか。と考えさせられてしまった。


 またプロ選手になれるのは今自分が今体験しているU23の世界舞台で勝つ選手。一定以上の結果を残せる選手。結果のある選手のみがプロへのステップアップができる。
 テレビ画面の中でプロロードレースを走っているプロ選手たちは、このU23世界レベルで結果を残しプロへのステップを踏むことができたここからまた1/100。それくらいの選手たち。ありきたりの言葉だが、プロになるのは本当に厳しいことなんだと感じている。厳しいからこそ価値があり、誇り高きものだ。プロ選手はどんな役割でも本当に誇り高き仕事だと思います。アシストという役割もエースという立場を任された選手もすべての選手が皆。


 選手はそれぞれの過去、思い、歩んできた道のり、1人1人がそれぞれのものを背負って走っている。プロ選手が背負っているもの、それはとてつもなく大きなものなのだろう。そしてとてつもなく強い気持ちと共に血のにじむような努力をしてきたのだろう。プロロードレーサーというのはその先にある姿なんだと思う。


 浅田監督が本に書いていた。選手にとってヨーロッパへ身を投じそこでする経験は選手の血となり肉となる。本当にその通りだと思う。この本物を知らずして、ここで何も感じず得るものがなく、自分自身がこの世界のロードレースを走る環境に自分の席をつくることができなかったら「自転車のプロ選手です」と自分の本心に目を閉じて自分を名乗ることは僕はできない。この世界のロードレースの現場の中に身を投じて3年目、その本当の姿が少しずつ見えてきたと思っています。



 まだまだやれることはある。アンダー23カテゴリーの最終シーズンが終わるまでは挑戦させてください。それまではできると信じて100%納得する取り組みをして目標達成を目指します。選手であるからには世界で走る選手でありたい。
 イタリアからフランスへの帰りの高速道路。窓から見える遠くの風景にそう願った。それでダメだったらそのときはきっと冷静に今後どうするか、自転車が自分にとってどういうものになるのかを考えてしまうだろう。


 あの日、浅田監督が自分にした質問をあの時より多くを知った今、もう一度自分に問いかけたら自分はこう答える。「はい。やらせてください。お願いします」と今もう一度、世界へ挑戦させてくださいという意味を含めた精一杯の気持ちを伝える。
 世界舞台で求められる結果を出せたとき、この活動を支えてくれているたくさんの人々へ、今は無きカタチで恩を返せる。そして、この取り組んできたことが正しかったと多くの人々へ伝えることができる。
 負け続けている選手の言葉には伝える力が宿らないことを知ってる。自分が世界舞台のレースでゴールした後に笑えたとき、結果といえるものを出せたとき、この気持ち、この思い、今は伝えたくても伝えられないどうにもならないこの想いを、今はまだ無き伝える力と共に爆発のようにその一瞬で表現できるだろう。



 そんな日が、きっと来るだろう。



 明日の飛行機でフランスから日本へ帰国します。夏までには数段階強くなってまたヨーロッパへ戻って来る。そして、こうして自分が一番やりたい夢への挑戦を全力でやれるこの環境へひたすら感謝し、本物を経験し、その世界を肌で感じ、そこで学び、世界中の選手たちと本物のロードレースを走って、その日々の中で感じる喜びや日常の幸せがたくさんあること。
 現状に満足は1%もしていないけど、そういうこの日々への感謝の気持ちは絶対に失わない。

   
   
   Photo:Sonoko TANAKA