『ZLMツアー』(UCIネイションズカップU23) レースレポート・総集

『ZLM ツアー』(ZLM tour)
 -カテゴリー:UCI Europe Tour 1.Ncup
 -期間:2014年4月19日(土)
 -開催場所:Goesグス(オランダ)

   


【レースレポート】

 今回オランダの海に面した低い土地をステージとしたネイションズカップU23の3戦目、『ZLMツアー』
 常に強い風が吹き続けている地域でのレース。こうした風の中のレースでは力だけではなく技術面や展開を予想してその対策をとる能力の必要性も一層高くなる。横風区間エシュロンという風上に選手を走らせ横からの風を直接受けないように走る斜めの隊列に入れなかったら確実に集団に残れないと思って間違いない。位置取りに全神経を集中させ常に集団の先頭に位置しエシュロンに入ることを絶対とし、ネイションズポイント獲得を目指した。今回、日本チームは自分がポイントを狙うという作戦のもとレースに挑んだ。回ってくるチャンスが回ってきた日だと思い今日の自分の役割を強く意識してレース会場へ向かった。



 レーススタートの笛が吹かれローリングスタートが始まる。ローリンング走行中から物凄い位置取り争いが起きている。まるでケンカのような激しい位置取り争いは強いストレスを感じる。落車もリスクも高く危険であるが、それでも集団の先頭に上がっておかないとリアルスタートと同時に集団先頭では横風を利用した攻撃が起きて後ろに位置していては攻撃を受けてバラバラにされることは確実。どこの国の選手もそれをわかりきっているので皆が集団先頭へ上がりたいと思うなか、集団先頭まで上がりその位置を勝ち取るのは簡単ではなかった。



 ローリング走行のうちに超密集集団のなか先頭まで上がりエシュロンへ入れる位置を維持する。リアルスタートの合図を待つ。オランダやイギリス、フランス、その他の強豪国もチーム単位で集団先頭に位置しリアルスタートの合図を待っていた。旗が振られリアルスタートすると同時にどこかの国の選手が全開スプリントで集団を縦に伸ばす。横風を使った攻撃が始まる。位置を下げたら瞬殺だと考えて良い。エシュロンに自分の居場所を確保するためにはどうしたら良いか。それは攻撃する国と同じ動きをしてエシュロンへ入り斜めのローテーションへ加わること。それ以外に方法は無い。横風レースは集団内にいて楽できるという普通の状況ではないからだ。



 先頭へ出ればスプリントしているのかというほどの勢いで横風の中踏む。そして斜めの隊列のなかローテーションを回す。後ろは縦一列で道の端ギリギリに1列の隊列ができている。集団先頭に自分の位置を確保できたおかげで攻撃する側に立つことができてここでは苦しまなくて済んだ。やがてレースは1時間半が経過する。横風区間による攻撃によって集団の人数がだいぶ減っていることがわかった。集団内で日本チームの選手を探したが発見できなかった。チームとしてはレース全体180kmのうち80km地点で1人しかいないというのは苦しい。生き残って15位以内でゴールしネイションズポイントの獲得が自分の役割だということをもう一度強く意識しオランダチームの後ろを位置取り次の横風区間での攻撃に備えた。



 レース進行方向は真向かいから右折をして真左からの強い風を受ける。オランダチームの選手の1人が「Let’s GO」と大きな声を上げた。「攻撃開始のサインにしてはあまりにも分かりやすいな」と思った瞬間、オランダチームとベルギーチームがスプリント並みにもがいてエシュロンを組んで集団の破壊を開始した。そこでエシュロンへ入れればよかったものの、数番手の差でギリギリ入ることができず縦1列の横風の攻撃をうけてしまうポジションへ下がってしまい先頭20人に残れなかった。いくつか分解した集団の第3グループへ取り残されてしまう。



 約20人、20人、20人と道幅いっぱいのエシュロンに入ることができた選手たちのみがひとつの集団となり大きな集団は3つに分かれた。どの集団も速いペースは保たれていたので、やがて集団は一つになるだることを期待してローテーションを回した。自分のいた第3グループが前の第2グループに追いついて、先頭20人を40人ほどで追走する形となった。しかし細い畑道での横風区間エシュロンへ入れず縦1列の攻撃を受けてしまう位置にいてしまった。それが最大の失敗点であり反省すべき事。

 あとのない横風区間で道の端に張り付いて攻撃をうけてしまう。450w以上で踏んでもやっと前者の後ろへ着いているだけで精一杯で他に何もできずに時間だけが過ぎていく。オールアウト寸前で自ら離れて後方で千切れている選手たちと合流し集団復帰を試みたが再び自分が集団へ追いつくことはなかった。その後140km地点でレースを降ろされた。
 レースの最終局面にはフランスチームが優勢にレースを運び、中盤まで第3集団に待機し勝負に備えたBOUDAT(2014年世界選手権トラックオムニアム優勝)が快勝した。



【レースを終えて】

 今回、日本チームは自分と岡選手の2人がポイントを狙っていくことを作戦としてのレースだった。自分にとってこれはチャンスと言える。しかし結果こうしてポイント獲得をするという任された自分の役割にはほど遠く達成していない。チャンスは与えられたのにそれをものにできなかった。
 ナショナルチームに対しても他の選手に対しても、浅田監督やスタッフに対しても、何と言ったらいいのかわからないくらい申し訳ない気持ちだった。そして日本を代表してここへ戦いに来ているのに、こんな結果に終わっている自分が情けなくて悔しくて仕方なかった。


   
   Photo:Akira ASADA ネイションズカップ3戦目『ZLMツアー』レースを降ろされた後



 これがプロ選手としての仕事だったら、「任せた役割を果たせない選手はウチのチームには必要ない」という当たり前の評価を受ける。そしてプロとしての自転車選手でいられなくなる。それは特別に厳しい評価の仕方をした場合ではなく、普通の評価の仕方をした場合でもそういうことになる。
 そうやってヨーロッパの自転車ロードレース選手の考え方。強い選手はいくらでもいるがプロの席には限りがある。1つの席を100人で奪い合うような過酷な椅子取りゲームのように。

 このU23世界最高レベルを再び経験して、そういう考え方をするようになった今、新たな気持ちが湧き出てきた。


 ただ、自転車ロードレースが好き、自転車が好き、楽しいから、やりたいから、だとかそういった理由で変化のないままやっていくつもりはない。自分にとって自転車は楽しければそれで良いものじゃない。もう、ただ自転車に乗って楽しむことなんてけっこう前にどこかへ置いてきたような気がする。世界舞台ってどんなところなのか。世界へ目を向けてそこで上がっていくこと。それがどれほど難しいかということを本物を体験して少しずつ知ることができてきた気がする。でも一度知ってしまったらもう目を閉じて回れ右することなんて絶対にできない。

 本当に厚い支援を受けて今回の長期欧州活動も自分たちが今こうして選手でいられることも成り立っている。ならばそれを結果で返せないと選手としてダメだなって思う。


 3連戦のネイションズカップU23は3戦とも全てが終了しました。目標としていた日本チームがネイションズポイントを獲得するという目標は結果的に達成できませんでした。しかし2戦目『ラ・コート・ピカルド』の最終局面、黒枝選手と連携してゴールスプリントに備えて位置取りしているあの瞬間の興奮、アタマのリミッターが完全に外れたあの高い集中域、ポイント獲得圏内でスプリントを開始した黒枝選手の背中を見たとき、空気の温度が変わったと思うほどの鳥肌が立った。あれは忘れられない。
 自分が自転車を通して感じるべき本当の楽しさ、喜びはきっとその先にあるものだと思うし、そうあるべきだと思っている。



 あの日、自分たち日本チームが世界トップ10争いをしていたことは確かだ。黒枝選手が僕らにそれを見せてくれたことはこれから変化していくキッカケに必ずなる。

   
   
   
   
   Photo:Sonoko TANAKA ネイションズカップ2戦目『ラ・コート・ピカルド』






 これからも2015年のシーズンが終わるまでの間、U23カテゴリーのうちに自分の目標である世界トップ10入りをして新たなステップへ移ること。それをできると本気で信じて真っ直ぐに挑戦していきます。

 面手 利輝

   
   Photo:Sonoko TANAKA ネイションズカップ2戦目『ラ・コート・ピカルド』


 
 明日(22日)は『パリオ・デル・レチオート』(イタリア)UCI 1.2U を走ります。この気持ちをぶつけて今この自分の殻を破りたい。